第1話
お命頂戴!御老中(江戸)3月21日放送
 無事に旅を終え、江戸に戻った水戸老公(里見浩太朗)。だが、格之進(的場浩司)は旅が終わることで役目も終わり、老公と離れなければならないと子供のように泣き出してしまう。八兵衛(林家三平)の案内で久しぶりに羽を伸ばした助三郎(東幹久)と格之進は、駕篭に乗り込もうとする老中の大久保加賀守(近藤正臣)が襲われるところに遭遇し、助けに入る。加賀守は、二人が老公に仕える水戸藩士と知って、複雑な思いを抱える。
 老公の元へ加賀守の用人・物部朔兵衛(小島康志)が礼に訪れた。加賀守が命を狙われた事の始まりは、神君家康公から拝領した楽茶碗を出石藩の家臣が割ってしまったことに発する。幕府では出石藩の処遇を巡り、断固改易派の加賀守と穏健派の土屋相模守(小野寺昭)との間で意見が対立していたのだった。老公は、加賀守が改易にこだわる理由は、出石藩を天領にして採掘される銀を幕府のものにするためだと見抜く。しばらく江戸に留まることを決めた老公は、お娟(由美かおる)が嫁いだ塩問屋・翁屋与右衛門(前川清)に世話になることにする。お娟は老公たちとの久々の再会を喜んだ。
 駕籠を襲ったのは、清治郎(金子賢)という元・出石藩藩士の笛師であった。竹馬の友・犬飼藤馬(前川泰之)は、一人で事を進めようとする清治郎を戒める。だが、仲間を巻き込みたくない清治郎は、信じてくれの一点張り。共に暮らす妹の沙耶(竹中里美)は、腕に傷を負って帰って来た兄を見て、危険なことに手を出していると察知する。問い詰められた清治郎は、割れた茶碗がもとで藩が改易になるかもしれず、改易を強く推している加賀守を討とうとしていることを打ち明ける。沙耶は自分も手伝いたいと申し出るが、清治郎は花嫁姿を見たいと言っていた亡き親のためにも生き延びて欲しいと言う。
 大名家の奥向きで踊りを披露するお狂言師・華仙(根本りつ子)のもとで習う沙耶は、今度、華仙が加賀守の屋敷に招かれたと聞き、ぜひ自分も踊らせて欲しいと願い出る。その一報を受けた老公は、楓(雛形あきこ)をお囃子に紛れさせる。沙耶の華やかな踊りに機嫌を良くした加賀守が、近くに呼び寄せたその時、沙耶は加賀守の命を狙おうと忍ばせた懐剣に手をやる――が、沙耶の手は素早く押さえられる。それは忍びの勘で密かに様子を窺っていたお娟であった。楓とお娟は沙耶を老公の元へと連れていく。
 老公は沙耶に身分を明かし、すべてを話すよう促す。すると沙耶は、自分の粗相で茶碗を割ってしまったことを打ち明ける。茶碗が割れた時、清治郎が咄嗟に沙耶を庇って切腹しようとしたところ、藩主の藤井忠周(真那胡敬二)が「人の命は茶碗に代えられぬ!」と言って許したのだ。その恩に報いるためにも、私たち兄妹は身命を賭して改易を防がなければならない。老公は、忠周の取り計らいに感心し、藩を思う兄妹の純粋な心に打たれ、一計を案じる。助三郎と格之進は老公の遣いで、加賀守を茶席に招待したいという旨を伝え、割れた茶碗と同じ小堀遠州の楽茶碗を差し出すのだった。
 その頃、水戸家の茶席に加賀守が招かれたという一報が清治郎のもとに入った。聞きつけた藤馬ら出石藩士たちは、この機会を逃したらもう後はないと、藩を抜け出し一浪人の身となって清治郎の元へと集う。そして、命を捨てる覚悟で共に加賀守を討つことを誓い合う。その様子を見ていた弥七(内藤剛志)はすぐに老公に知らせる。
 茶席に加賀守がやってきた。老公は加賀守に渡した楽茶碗が、実は無名の茶碗であることを打ち明ける。そして加賀守が銀の採掘を幕府で独占しようとしている企みを明らかにし、藩と幕府の共同で採掘を行うことで領民も幕府も豊かになるはずだと提案する。老公がすべてを見通していたことを悟った加賀守は、老公の点てた茶とともに提案を受け入れるのだった。
 一方、加賀守を討たんと団結した清治郎らは、水戸藩邸から出て来た駕篭の前に飛び出す──その時、駕篭を警護していた助三郎と格之進が印籠をかざした。中から出てきたのは、老公であった。老公は清治郎に、忠周からもらった命を大切にしてほしいと願う沙耶の気持ちを話す。そして加賀守の取り計らいで出石藩の改易が沙汰止みになったことを伝える。老公は主君の恩に報いようとする兄妹の真っすぐな心と、己を捨てても義のために生きる若者たちの姿に心を打たれ、明るい希望を胸に西山荘へと帰るのだった。