第1話
千客万来!代筆美人(桑名)2月21日放送
水戸老公(里見浩太朗)と助三郎(東幹久)は桑名の問屋場へとやって来る。飛脚をはじめとする運送業で賑わう問屋場の中でも、ひと際華やかなのがおちょう(若村麻由美)の店。おちょうは、言葉では表せない客の思いを汲み取り、流麗な文体で手紙を認める代筆稼業をしていた。筆を執るその姿は、まるで客の心が乗り移ったようで、多くの客と見物人から喝采を浴びていた。そこへ、病身のお種(田島令子)がやってくる。お種は常連客で、おちょうは字の書けないお種に代わって、息子の峰吉(津村知与支)への手紙を書き続けているのであった。
その頃、老公たちから遅れて桑名を目指していた格之進(的場浩司)は、山賊に襲われている飛脚を助ける。問屋場の主人・叶屋彦四郎(石井テルユキ)と飛脚頭の甚六(梨本謙次郎)は、格之進に仲間を助けてもらった礼を言う。甚六によると、最近、荷車や飛脚が山賊に襲われるという事件が頻発しているらしい。彦四郎の叔母であるおちょうは、峰吉からの手紙をお種に届けて欲しいと問屋場へやってくる。実は、峰吉からの手紙はすべておちょうが代筆していたのだ。峰吉は江戸に行くと言って家を出たきり、便りひとつよこして来ない。お種を不憫に思うおちょうは、時折、峰吉のふりをしてお種に返事を書いているのだった。
人手が足りなくなったため、大事な幕府の書状を急遽運ぶことになった甚六。脚に古疵があるためおちょうは心配するが、格之進は自分が擁護しながら走るから大丈夫だと出発する。一方、助三郎はお種のもとに手紙を届けに向かう。おちょうが代筆した峰吉からの手紙を、そうとは知らず抱き締めるように読み返すお種。お種は届いた手紙をすべて壁一面に貼って、見守っていた。助三郎は胸が詰まる。
老公の筆捌きに感心したおちょうは、老公に代筆を手伝ってもらうことに。おちょうは、父と兄が持ってきた縁談が気に入らず家を飛び出したことを話す。老公は、おちょうが甚六に気があると見抜くが、おちょうは素直になれない。一方、飛脚として甚六と共に走る格之進も、二人は互いに気があるのではないかとからかう。甚六は、かつておちょうは自分の縁談をまとめるために恋文を書いてくれたことがあり、気があるなんてありえないと断言する。その手紙は破ってしまい結局、独り身を貫いている甚六が、おちょうに惚れていることは明白であった。
峰吉は山賊の片棒を担がされていた。仲間を抜けたいと言う峰吉に、山賊の頭・源十郎(大久保運)は峰吉を始末するよう命じる。飛脚を襲う山賊の正体を探っていた弥七(内藤剛志)と楓(雛形あきこ)は間一髪、峰吉を助ける。ようやく峰吉の消息を掴んだおちょうは、親不孝者の峰吉にお種の手紙を読んで聞かせる。母親の想いを知り後悔する峰吉は、山賊たちが問屋場の仕事の横取りを企む何者かに雇われていたことを教える。正義感の強いおちょうは、話を聞くやいなや奉行所に訴えると店を飛び出したのだった。老公と助三郎もすぐに後を追いかける。
おちょうと老公、助三郎が町奉行・小松新左衛門(石山輝夫)に訴え出ると、逆に牢に閉じ込められてしまう。弥七は、小松と問屋場の仕事を奪おうとする脇本陣の江嶋屋九右衛門(坂田雅彦)が結託していることを知らせに、牢へ来る。おちょうは、甚六の身に危険が迫っていると案じる。老公は自分たちも後がない、後悔の残らないように甚六への想いを手紙に綴ってはどうかと勧める。他人の思いはよくわかるのに自分の思いはわからない……そんなおちょうが、初めて自分のために手紙に向き合った瞬間だった。
格之進と甚六が源十郎率いる山賊に襲われているところへ、弥七と楓が援護に駆けつける。源十郎たちを捕らえた後、弥七はおちょうからの恋文を甚六に渡す。そこには、ただ一言──「ずっとお前を待っている」。甚六は、ぶっきらぼうなその言葉を噛み締める。牢を出た老公は、小松と対峙する。格之進たちが捕らえた源十郎を証人に、小松と江嶋屋の企みを明らかにするのだった。そして、一世一代の恋文によって想いが通い合ったおちょうと甚六を微笑ましく見守るのだった。お種と峰吉の母子も、おちょうの手紙によって再会を果たす。老公一行は、手紙がつなぐ人の縁に胸を熱くし、桑名を後にしたのだった。