水戸老公(里見浩太朗)一行は三島へ。老公は二人連れの旅人・おかね(中村玉緒)と十歳の少年・長吉(上原陸)と出会う。おかねは長吉が死んだ知人の子だと説明する。実は、おかねは詐欺師で、長吉と組んで人をだまして稼ぎながら旅を続けており、二人はいつか居酒屋を開くという夢を持っていた。
縁あって老公一行とおかねたちは、「ふじ芳」という宿に泊まることになった。ふじ芳は主人の芳太郎(吉見一豊)と女将のおふじ(仲代奈緒)で営んでおり、二人は明るく仲のよい夫婦だ。しかし夫婦には、十年前にがけ崩れで赤ん坊だった息子と生き別れになるという悲しい過去があった。
夫婦の話を聞いて、おかねの表情が曇るのを老公は見逃さなかった。実は長吉こそが二人の子だったのであった。そして、それを察したおかねは苦悩の末、芳太郎夫婦にとてもなついている長吉を、実の父母に返す決心をした。そしておかねと暮らしたいと願う長吉を置いて、ふじ芳を去った。ご老公は育ての親ともいえるおかねの心情を察し、哀れに思うのだった。
一方、三島で評判の「ふじ芳」を使って、三島の代官・波原吉左衛門(谷本一)と物産問屋の昇屋昇五郎(小沢象)は、ふじ芳の商売を大きくして儲けをかすめ取ろうと企んでいた。だが堅実な芳太郎は頑として同意しなかった。長吉が芳太郎たちの子だと知った波原は、長吉をさらい芳太郎を脅す。
そのことを聞いたおかねは長吉を救い出すために、占い師に扮装してお娟(由美かおる)と共に昇屋に一芝居打ち、無事に長吉を助け出したのだが、波原らに見つかってしまう。そこへご老公が現れ、波原と昇屋の強引なやり方を厳しく戒めた。そしておかねに、長吉とふじ芳で一緒に暮らすよう勧めたのだった。